ミユキという少女は良く「知っていた」。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　例えどんな相手であろうとも自分にとって「望むべきものを持つ存在」を害する事など出来ないという事を。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「それ」が、「それ」こそが「人間」という「存在」の「本質」であるという事を。

彼女にとってあゆみは良き「手駒」という認識でしか無かった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だからせいぜいキープを出来ればというレベルの話。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　今はもっと「大事な事」を「落着」させるという「仕事」に直面していた。

そう、あゆみの腰にある「それ」を真に「開放」する為にはどうしても必要な「鍵」が必要となる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　その「科学」は元より「化学」、そして「生物工学」の粋を凝らして生み出された「それ」こそがその「ドライバー」を解き放ち、装者に強大な「力」を持つ「存在」に「変身」させる為に絶対に必要な「代物」なのであった。

ミユキのその「言葉」にあゆみはギョッとし、そして思わず腰に巻かれた「ドライバー」に目を落とした。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　その顔からは今しがたまでの「憤怒」の形相も、「心」を覆い付くそうとしていた「黒い激情」もすっかり影を潜め、逆に血の気が引いたかの様な半ば青褪めた様な表情すら浮かべていた。

だからこそあゆみは自分へ絶対に手を出さない。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いや、出来よう筈が無い。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　最早「それ」すらも彼女にとっては織り込み済みの「確定事項」であった。

露骨に煽り倒すミユキのその言動に流石になおも憤りを覚え声を荒げる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しかし当のあゆみは項垂れて何も言おうとしない。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　否、今の自分に何が言えるかと思い、開けずにすらいた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そんな「宿主」の「心」の逡巡が「相棒」には他の誰よりも強く感じていた。

あゆみは普段見せる事の無い険しい表情と感情を露わにし暴走する目の前の少女を諫め止めんとする。

その時、あゆみの「心」に宿ったのは多分それまでに感じた事の無かったであろう「感情」であった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あの北海道の地で母と対峙した時にすら感じた事の無い程のドロドロとした「感情」の波が彼女の白い「心」を黒く、黒く染め上げていった。

そして今また此処に時を超え「選びしもの」と「求めしもの」が一体となり邂逅した―――！

そこで少女が目にしたものは―――――

少女が、少女たちが知らない、見たことがない「彼女」の「表情」であり「姿」であった。

きっと「原初（はじまり）の彼女」も「こう」だったのだろうか。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　耳触りの良い言葉を並べ彼女を誘う少女の「それ」は「蛇」に扮し「彼女」を誑かしたかの忌まわしき「奴」の姿を彷彿とさせるものであった。

「それ」はその少女にとって最も忘れ去りたい「過去」。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　例え「それ」が「現実」の事であったとしても今は「無かった事」にしたいと願って止まない「過去」。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　でも、心の何処かでは「それ」を「忘れる事」は出来ないと、「忘れられない事」だと思ってもいて、ずっと「それ」が少女の「心」に「膿」の様に今も蝕み続けていた。

その視線の先には件の「彼女」が居た