来月の秋祭りに向けて大忙しの薬草園ですが、世界中の珍しい植物を取り扱うだけあって、温室ではこの時期ならではの妙なものが栽培されています。 「不思議ですわあ、ジャック・オブ・ランタンが生えてますわあ。土からじかに生えているのに、ヘタは必要なんですかねえ？」 「様式美ってやつだよ、れむルカ。装飾品ならば見栄えが良いに越したことはない」 「これらがすべて、エルフの里を彩るのですよお。でも、ここにあるのみんな食べられないのがちょっと残念ですわあ」 「もとが植物だから、魔法の木から種を得て大量の複製品を作るのはさほど難しいことではない。だが、それを食用に転じるとなると、なかなかすぐには出来んよ」 「あたしらはこれを食べてもお腹をこわしたりはしないけど、たぶん、どんな調理をしても味がしないと思うよ。栄養も全然ないし、しいていうなら虚無の味かな。食べても飢えるだけの」 「今日は珍しくアレクシス姉さまおひとりなのね。鍾季姉さまは？」 「あの子なら今、ハロウィン向けの縫製で忙しくってさ。ここ連日、工房で寝泊まりしているくらい。ああ、ここへは後で染料取りに来るよ。橙系のやつが全然足りないんだって」 「ちゃんと休んでいるかしら。ちょっと心配ね」 「あの程度でまいっちゃうことはないから、クラン。鍾季が来るころを見計らって、ちゃんと食べられるかぼちゃを使って新作のお菓子でも焼いておこうかね。ユーク兄さま、厨房借りてもいい？」 「かまわないよ、祭りで出す料理の試作品かね」 「そう、城下の広場でテーブルを並べる時のごちそうの一つ。鍾季もそうだけど、好きなことなら時間を忘れて没頭できるから全然疲れないよ」 「もう、遠くの山の上は色づき始めているわ。実りの時期はすぐに過ぎて、あっという間に冬が来るのね」 「ま、ハロウィンとクリスマス向けの衣装やら帽子やらで、鍾季の工房はにぎやかなことになっているよ。気が向いたら覗きに行ってみたら？」 「そうね、収穫したランタンをリュンヌのところへ納品に行くついでなら」 「じゃあ、その時にソーン・シザーズもきれいに研いであげようか。そろそろ手入れが必要だろう」