耳が、片方しかない。 狂気と謳われたその紅の両眼も今や見る影もない。 帰るところもわからない。無事なのだろうか。 この喧騒はどこから聞こえているのだろうか。 これが、目が見えず、耳が聞こえず、まっすぐ進めない。 彼女が。ずっと、あの美しき檻への道のりで、侵入者にやってきたこと。 これが、狂気に飲まれた、ということ。狂気を使う彼女だからわかること。 これが。絶望。 彼女は左手に気づく。自分は、私は何かを握っている。 円柱･･･いや、球形？そして底は平たい･･･。これは。フラスコ。 師匠が、最後まで実験を積み重ね、それでも顔をしかめていた、あの薬。 左の手に握られているのは。その薬。 いつ手に入れた？そんなことはどうでもいい。これは。最後の力。道標。 赤眼の月兎は、もう一度戦えるのか。もう一度だけ、立ち上がる。 なにも映らぬはずの赤眼の奥には、師匠の姿が映っている。 両目からは血ではない、流れるもの。涙。 いま、彼女の目が赤いのは、狂気ではない。

エルフの里とは―― 世界のどこか（イメージ的にはドイツ北部から東欧、ちょい北欧。ただし海からは遠い設定）の人里離れた森林地帯にある、高い城壁に囲まれたエルフ族が住まう一帯。門前のクリーチャー商店街までは観光客の人間でにぎわっているが、その先はレアが認めた者以外は強力な結界に阻まれて、クリーチャーや他の上位種族すら容易に立ち入れない。 おおまかにレアの館、エルフの館、城下で構成される。寿命の概念がない他種族ならびにその使役たちを住民に受け入れていて、その者たちも広義的にはエルフ族と呼ばれる。内部は上下水道こそ完備しているが中世欧州風の雰囲気たっぷりで電化製品もほぼ見られず、薪で煮炊きしメカたこや竜が荷車を牽く異世界。夜は魔法の燃えない火や光石による照明が使われる。農園や牧場などを所有して温泉もあって基本自給自足。近年はクリーチャーの通販利用などで人間の文化風俗の影響を受けつつある。 レア： エルフの里を束ねる統治者で里の結界主でもあり、エルフ族の女王とも呼ばれる。普段は中心部にあるレアの館で従者たちにかしずかれながら暮らしている。 姿形こそ令嬢風の少女だが地球とほぼ同年齢であり、この星を造り上げた創世の女神と目されている。もっとも、彼女自身断言はしていない。他にも地水風火の御方と呼ばれる神々がいるらしい。人間の街に供を連れてやってきたことをきっかけに、北米一族とも親交がある。 ムーレア: レアの使役。代々彼女に仕えているクリーチャー種族で、常に主の側にいる。彼女に遣わされた用事の途中で立ち寄った街のクリーチャーたちと会談したこともある。 マリエル： レアの館の女官長。本性はネズミだが、太古の昔すぎて当時のことは忘れてしまったらしい。仕事は館の采配から、里で保護者のいない子供たちの世話まで多岐にわたる。