この町の由来となったかつての「あの町」の「日常茶飯事」の様に「予測外」の「事態」というものはこれまでにも何度も起きてきたし経験もしてきた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だが「それら」はあくまで幾つもの条件や状況が同時並列的に重なって起きた「偶然の産物」と言えるもの。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しかし「これ」は彼女にとって正に「予測外」の事であった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　心の何処かでまだ侮っていた（科学という分野において明らかに格の差がある）この少女がよもや自分の「予測」をこの様な形で「超えてくる」などとは。

そして案の定と言おうか彼女はキリコのその諌止を一顧だにせず言下にはっきりと「拒絶」した。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　恐らく元々から、そして多分今この時ですら「決して最も使いたくない言葉」を敢えて使う程に確固たる「覚悟」を以って。

「この世界」には、「この宇宙」には我々の理解が到底及ばない、理解出来ない事が数多に、広大に、不変に存在している。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そしてその「無知」は総ての生きとし生けるものに等しく「共有」されている。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　例え「それ」が「いとたかきもの」（）が戯れで英知を与えた存在とまで言わしめられた「彼女」であったとしても。

故に彼女は少女に「託した」。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　忠誠を誓った「あの御方」の事。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　掛け替えの無い「仲間達」の事。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　拙い自分を師事してくれた「教え子達」の事。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　今や自分の「故郷」となった「この町」の事。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　その「総て」を。

キリコのその「思い」を彼女自身十分に「理解」する事が出来た。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「それ」でも彼女の「決意」もまた揺らぐ事が無かった。

意かな天才科学者と言えど畑違いの「魔法」に関しては未だ門外漢。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　それでもキリコやその親族達から得たデータにより大まかな部分に於いて掴めている部分もある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　何よりミユキは本来の自身のベースたる「魔法」に新たに習得した「科学」の要素を取り入れた「手段」を用いている。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　なればこそゆっきーにはまだ彼女に「付け入る隙」が遺されていると言えた。

極限の現状、そして持ち手を考えた場合に取り得る方法は最早「これ」以外に無い。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そう彼女は「判断」した。

そしてそんなキリコの「決意」を、「思い」を「彼女」はしっかりと感じ、受け止めた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「昔」ならいざ知らず「今」の「彼女」は「それ」が「理解」出来る様になっていた。

そんな「主」の辛そうな様子を見ていた彼女もまた辛い気持ちに駆られた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「それ」は少し前の彼女からは決して有り得ない様な「感情の共有」と言えた。

彼女は首にあるチョーカー型の専用モジュールにそっと手を掛けた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　まるで「何事か」を「確かめる」かの様に。

そしてその直後、彼女の口元がふと少し「微笑んだ」―――かに見えた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「それ」はまるで「何事か」に対し意を決したかの様に。

そして彼女は目の前のミユキには悟られない様に不意を突いて少し横に目配せをした。

彼女にとってあゆみは良き「手駒」という認識でしか無かった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だからせいぜいキープを出来ればというレベルの話。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　今はもっと「大事な事」を「落着」させるという「仕事」に直面していた。

しかし名指しされた当人はこの期に及んでも全く悪びれる様子など微塵も無かった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　それどころか寧ろ「こうなる」事が既に定まった「運命」であるとすら言い放った。

ミ：「じゃ……ま、”取り敢えず”――――――」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　か：「ミユキさん！？　何を！？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゆ：「ッ――――――――――――」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　▶　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不意に輝き出すミユキの腰のドライバー。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「それ」は先程現れた時と同様な「輝き」を再び放つ。