人外が集うエルフの里にある野菜と果実の工房。そろそろ冬支度が始まって収穫と加工に忙しい毎日ですが、いつもお騒がせの精霊たちの大暴走（喧嘩ともいう）で、みるみる内に勝手に生成された果物が宙を飛びかう修羅場が始まってしまいました。 「ほら、ふたりとも泣かないで。ちゃんと私が話を聞くから」 「だ、だって、マスカットが……うえええ」 「ぐすっ、ぐす……何だよ、アプリコットだって」 「はいはい、いい子だからそろそろ泣きやんでちょうだい。工房があなたたちの分身で埋まってしまう前にね」 （みんな、手が空きしだい回収作業を急いで。浄化は後で私がやるから、ひとまず……そうね、第３、第４貯蔵庫がまだ余裕があるはずだから、そこへ運んでおいて） （はあい、ルシリア様。第１便運んでまいりますわあ） （れむルカ、悪いけど荷物置いたらそのままメカたこ運輸の営業所へ一緒についていって、追加の応援を要請してちょうだい。ああ、途中で暇そうな兄弟姉妹がいたら手伝うよう声をかけて。帰り道、非番の子たちも連れてきてもらえると助かるわ。悪魔っこたちはそこらで遊んでいそうだし） （うふふ、お任せですわあ。葡萄やあんずのお菓子が大量にできそうですねえ） （前回の在庫がまだ時止庫に眠っているの。こういう負の感情で生み出された果実は生食できないから、葡萄はワインにでもするか。もうちょっと早ければボジョレー・ヌーヴォーこと葡萄の祭りに間に合ったのだけど） （今からワイン仕込んだら早くとも年末年始ですわあ） （……いっそ、クリスマスからお正月にかけて第二の葡萄祭りやる？　あんずも杏露酒にして節分の時期にふるまう、と。悪魔教会はともかくヤコが苦い顔しそうだけど、里の飲んだくれたちは喜ぶでしょうね） （それではルシリア様、それらをエサに手伝いを釣ってきますのよお） （頼んだわよ、れむルカ。ヤコには今年の年末年始も工房のケーキをホールごと、それも新作を松の内まで毎日サービスするから、と伝えておいて） 「ルシリア様、追加のかごを取ってきましたわ」 「ありがとう、マンダリン。樽でも木箱でも貯蔵できそうなものはかき集めてきて。みんなも重労働だけど頑張りましょう。さて……あなたたちもそろそろ落ち着いて、ね？」