高校卒業、地元の百貨店に就いた小田紗也子は職場のパワハラに耐え切れず2年後に退職する。その際精神の病に罹り一年間の休養を得た後に近所の書店でパートとして働き始める。 　やがてそこの店長・冨山と肉体関係を持つと男の子を腹に宿す。この事実を店長に打ち明けた紗也子は、男が既に妻子のいる身であると同時に厄介事は御免だと身勝手な理由で別れを告げられる。 　紗也子の親族は身籠った子を堕ろすよう諭すが、紗也子は子を産むと決意し無事それを果たす。未だ精神病を患っていた彼女だが、子への愛がそれに勝り、やがて息子はすくすくと成長し11回目の誕生日を迎える。 　しかしその日に限り息子がいつまでも帰ってこない。不安を拭えない紗也子は小学校に電話するも返答は「わからない」の一点張り。日が暮れても尚姿を見せないことに落ち着けない紗也子は警察に電話する。 　数時間後、小学校の理科準備室の窓際にロープを掛けて首を吊った我が子の姿を目にした紗也子は、不思議と涙を流さなかった。我が子が大の科学好きでよく理科室に通っていたという話を前に教師から聞いたことを思い出すと同時に、目前の光景が非現実なのだと錯覚に陥る。翌日、愛する子が死んだという事実を明確に認識すると一日中叫び続けた。 　三日後、小学校の職員が息子の書いた遺書を隠していた事を警察から聞くと、怒りの余りその職員の右目に出刃包丁を突き刺し、傷害で逮捕される。 　紗也子は署内で刑事から、我が子が複数の児童によるイジメが原因で自殺した可能性が高いという話を聞かされる。紗也子は怒り狂い衝動的に頭蓋骨が崩れる程に壁に頭を打ち続け自害する。 　だが紗也子は死んでいなかった。厳密には精神だけが健在だった。紗也子は超常的な何かにより誰からも"認識されない存在"なのだと漠然とした理解を頭に留めつつ、その力を活かし息子を虐めた連中を特定し、庭球クラブの少年、野球好きの少年……計五名の児童を殺すと、それでも尚晴れぬ恨みの矛先を新たな標的へと向けた…… 　部下の失態により帰宅が遅れた冨山は不貞腐れた顔で家のドアを叩いた。だが妙な静寂が漂う事に違和感を覚えた彼は、恐る恐るリビングの扉を開いた。 「あら、おかえり。お前が帰ってくるまで、お前の妻と子供の顔を引き裂き続けていたのよ」