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『 その日の深夜、マルゴは工房の裏手にある一室を訪れていた。そこにあるのは、天空穿孔ポート、それを開閉するための装置とグラウンドにおけるガイアキャンサー反応の観測機を兼ねた大型パネル。 子供たちの転送やホーイックの観測など、平素は明確な用事が無ければ訪れることのないこの部屋に、この時に限っては用もなく訪れていた。彼女をそうさせたのは、昼間来た一組の客人だった。大量の金を積み、オーダーの他には一切何も語らなかった男女。一度でもこの街で商売をしたことがある者なら、彼らのような人をさしてこう呼ぶだろう――「最も上質な客」と。「クルスク夫妻……」 本名か偽名か知る術のないその名を、マルゴはわけもなく呟いていた。名前だけでは兄妹・親戚の可能性もあるが、男女の手には揃いの結婚指輪があった。そして年齢から察するに、F2ないしF3世代。フェジテ創生時、様々な観点で最適となるバランスを考慮してF1世代の個体を生成、各都市・町・村へと配分したが、その辺りの詳細な設計は社会科学・資源経済学的なバックグラウンドを持つ別のチームが主担当だったから、マルゴとて全容を把握してはいない。しかし直観的にだが、あの夫婦は社会階層において上位20%までには確実に入る層だろうと、マルゴは見ていた。言葉数は少なかったものの、理知的な所作や顔付き、話しぶり等の面でそう感じられたのだ。 ……普段、マルゴがここまで特定の客に思いを巡らすことはない。夫婦での客人が珍しいというのはあるが、それ以上に彼らが気になる理由について、彼女には自覚があった。『でも、あそこは辺境よ。行くならばすべてを捨てなくてはならない』 それまでの人生で築き上げてきたものを、凡そすべて捨ててでも何かを達成せんとする――かつて自分らがこの大陸に渡ることを決めた意志とはそういうものだったわけだが、それと似たものを彼らの瞳に見た気がした。そこには単なる、心理学で言うところの「投影」もあるかもしれない。しかし何もかもが停滞し時間すらも淀むこの街においては、その片鱗であっても滅多に見ることはない。 ……何にせよこの「狂夢堂」の客である以上、彼らもまた「狂った夢」を追っているのだろう。ただし、それがどんな「夢」であるかを知ることは、おそらく終生無いのだろうが。』

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