思わず身をすくめるほど、頭の奥が痺れるほどに甘い そんな甘美な魔法に囚われてしまってから、どの位経ったのだろうか？ 60年の混沌は未だに世界に暗い翳を落とし、 安らかな時間の到来は遥か遠くを漂うばかり。 憎しみは増し、悲しみは重なり、そしてまた多くの命が無碍に奪われていく。 己を包む虚無を払うことに人は必死で、足元にも宿る命を気にかける余裕すらない。 それでも、この世界で生きると決めた。 この世界でしか生きられないのだ、人はどこにもいけないのだ。 この、苦しみしかない怨念蠢く世界だけが、人に与えられたただ一つの「自由」。 その自由に呑まれないように、堕ちてゆかないように、 人々を護ると、決めたのだ。 それでも、共に生きると決めた。 何一つ報われない道を往く、それをこの小さな命は定められたのだ。 綿よりも軽く膜よりも薄い、その命をいつ取り上げられるかもわからぬままに。 誰よりも尊い、誰よりも愛しい小さな小さな宝物を、 命を分けた存在を守ると、決めたのだ。 照らし出す月の光だけが、私達ふたりの契りの証明。 衣越しに伝わる互の温もりだけが、彼と我を繋ぐ唯一つの絆。 例えこの身引き離され、死を持って別け隔たれようとも、 貴方を、 キミを、 ―――――――愛します。

それは、運命だと思った。 愛する者を守れなかった俺の元に、その娘はやってきた。 崩壊寸前の身体で、ズタボロになるまで戦い抜いて、 誰にも救われず、誰から報われず、 ただ戦果を得るためだけに、酷使され続けて。 誰かの願いが叶うころ、別の誰かは涙に暮れている。 皆の願いは、一度には叶わない。 神様にだってできないのに、俺に出来るはずはないのはわかっている。 それでも、 それでも、愛しい人の姿をしたこの小さな命を救う事、 それが俺自身の、最初で最後のなりふり構わぬ願いだという事は、 誰に言われるでもなく分かった。 この願いさえ、叶うなら……俺は、どの様な罰をも受け入れるだろう。 だから神よ、俺を幾重にも罰してくれ。 海に捧げると誓ったこの心と体を、たった一つの我儘に費やそうとする俺自身を。 誰かの願いが叶うころ 第1話　im6284293

初参戦です。 小さな命に囲まれたいと思ってたくさんのペンギンたちと戦える子を考えました。 スプの走り回るというコンセプトを重視した性能になっているはずです。 よろしくお願いします。

「わたし、一人でも、寂しくないもん…」 約一時間で描いた落書きっぽい感じのフランちゃん 儚しげな感じにしてみたかったけど、うまくいかなかった

吐く息が白く煙る年末。俺はバイトの帰り、奇妙な音を聞いた。 ネオンの輝く商業地区から離れて住宅街の端に差し掛かった頃に聞こえた、夜嵐の遠雷の中で打ち付ける雨音に封殺される獣の呻き声のような音。 一拍おいてバリバリと軽いエンジン音が三つ。50㏄そこらの原付だろうか、遠ざかっていく。 どうやら目の前の通りを右に曲がった奥のようだ。 ごく普通の住宅街。バイクの咆哮は遥か遠方になっていた。 このような豪雨の深夜に奔り屋とは、と嘆息していると通りの二つ目の曲がり角、青白いLEDの街灯の灯る電柱の下で何かが動いているのを見つけた。 ぁぁ……、にゃぁ……、っぁ……。 何だ、猫か。 そう思い、傾いた視線を元に戻そうとした時だった。 猫のそれにしてはあからさまに大きい影が積まれたごみ袋の山からよろよろと這い出し、破れたその内の一つを漁り始めた。 つま先が通りに向いた。恐怖からくるそれへの探求心か純粋な興味なのかは分からない。 一歩、また一歩。 そして、俺はそれを見た。 氷雨に打たれ、血の気の引いた蒼い肌に生々しく浮き出た赤黒い無数の痣。首元にはつい先日につけられたであろう指の形の痣もある。 水気を含み、華奢な身体に張り付く薄手のＴシャツは酷く使い古され汚れも目立つ。 驚いたことにそれ以外の衣服は全く身に着けていない、透けたシャツの下、下着すら身に着けていなかった。 暗くて良く見えないが、手と足に装飾を付けている。何かのアクセサリーなのだろうか。 年はせいぜい十と言ったところの小さな女の子。 目が合った。 怯えきった瞳だ。 顔の左半分は腫れ、白目から出血までしている。 カッターナイフだろう、前髪は一直線に断ち切られ、額にはその傷痕が治りかかっている。 にゃぁ……ッ。ぁぁあ……。 一瞬、夢を見ているのかと思った。 俺の意識を惹いたあの声が聞こえたかと感じた時、少女の短い黒髪を割って耳が、尾てい骨の位置から尾が、しかも二本生え、全身に禍々しい紋様が浮かび上がったのだ。 もし、あの時、俺がバイト帰りじゃなかったら。 もし、あの声に、惹き寄せられなかったら。 もし、恐怖心に駆られてその場を離れていたとしたら。 ねこまたの少女―――くろ。 在る冬の雨の中で俺が出逢った、小さな命――――。 ……といった小説をどなたか執筆して頂けませんか？