エルフの里のバレンタインデーは、夫婦や恋人（性別不問）同士でチョコレートやバラの花束を贈りあい、レア様の館で音楽と赤ワインを楽しむ、少々シックなオトナのイベントなのですが、現時点でそんなものとは無縁の女子勢が、クラン・ハイルさんの家に集まってお菓子を焼いています。 「セルシアナ、あんまり薄すぎても型がうまく抜けないよ？」 「だって難しいのよ、アレクシス。ここはスイッチをひねれば火や電気がつくわけじゃないから」 「そうだけど、クッキー生地伸ばすにはあんまり関係ないじゃん」 「この麺棒、前来た時はなかったけどクリーチャーの通販で買ったのかしら」 「この程度なら外に頼るまでもないって、オルティス兄ちゃんが木材1本から削り出して作ったんだって」 「オルティスも相変わらずやることがすごいわねえ。のし台だって本物の大理石でしょう？」 「まあね。型抜きはあたしの作品。一角獣や龍、蝙蝠羽と天使の羽のやつとか、城下の連中にも好評なんだ」 「ねえねえ、クラン。生地が完全に冷まったらあんずジャムを塗るんだっけ」 「そう、巻いてガナッシュクリームを塗って、果物で飾りつけ。ロールケーキ作るの久しぶりよ」 「昨年からあんずとぶどうが大量に余っているとかで、今年のバレンタインデーは赤ワインを城下でふるまうらしいわね」 「うちにもユーク兄さまの家にも樽詰めが山ほどあるわ。アルメリアも持って帰る？」 「ユークレース様は今日もお仕事？」 「ええ。着ぶくれて研究所まで歩いていったわ。お菓子が完成したら味見するから呼んでくれって」 「そりゃあクラン、火属性にとって雪の日なんて大敵だもん。あたしだって外出歩きたくないから、結界の門をくぐる時以外は瞬間移動で飛んできたし」 「それに引き換え、鍾季様はお元気ですねえ。この寒い中、イヨさんとモモさん引き連れて雪合戦してますよお」 「あの子たち出自は機械のはずだけど、寒いの平気なのかなあ。それがちょっと気になるんだよね、アルメリア」 「戻ってきたら、すぐにうちの温泉につからせれば大丈夫じゃない？　アレクシス姉さま」 「あたしたちは細菌やウイルスは敵じゃないけど、低体温や熱中症とは無縁じゃないから気をつけなきゃ」