ウルル・・・聖なる雲・立ち上る

　長い長い逃避行の末、山あいの古ぼけた村落で不思議な子と出会った。 　海などここに住んでいれば一生目にすることもないだろうその場所で、その子は小さいながらも懸命に生きていた。 　聞けば自分は氷の妖精で、もう長いこと人の寄り付かなくなったこの村で一人でいるんだという。通過する人もまばらなこの村で、私は久々の来訪者だったらしい。 　海という存在を知らないというその少女は、それでも私を見るなり「海ってどんなとこなの？」と目を輝かせて聞いてくる。私からかすかに立ち上る香りを感じ取ったのか、それが海のものであるということを直感で理解したのか。私が海を生業にすることを見抜いた理由は正確には分からないが、彼女の興味を刺激する程度には私は目新しい存在だったのだろう。 　話をした。夜通し、尋ねられるままに。私が表現できる限りの「海」を。 　そこに生きる人びと、何が行われているのか。何があって、今どうなってしまっているのか。 　私が今こうしてここにいる理由。散り散りになってしまった姉妹達。重大な「裏切り」も……。 　もう行かなくては、と席を立つ私に、少女が言った。 「ね、私もついて行っていい？」 ―来ても面白いことなど何もないぞ？逆に身の危険にさらされるだけだ 「何が面白くて、何が危ないかは私が決めるの。私は自分の分別くらい自分でつけられるもの。今日までそれをする必要がなかっただけ」 ―来てどうするつもりだ？ 「貴女はいずれ海に戻るんでしょ？なら、付いていけば海を見れるじゃない！」 　どうやら、この幼い妖精は私を新しい拠り所として決めたらしい。 　勝手にしろ、と言って私は歩き出す。だが、その歩みはこの村に入った時よりも、明らかに軽いものだった。 　今更ながらに実感していたんだ、 　誰かを背負うこと、必要とされること。それがこんなにも心に重く、そして熱く染み入るものだったなんて。

ゲッター3らしい戦車型砲撃形態 頭から立ち上る煙はフルパワー時に炉心を強制冷却するために冷却水を蒸発させたもの 動力は蒸気機関ではない