高知沖合、WKD艦隊警戒海域- 新機材として導入された「パワードスーツ」の運用テストとリュウの訓練のため、キラとシンはそれぞれが担当するスーツを持ち出しての特訓を行っていた。 戦闘用義体ではないとはいえ、リュウは最新型スーツのコアユニットである以上、最低限自らの身は守れるようにならなければならないからだ。 性能差をものともしないキラの苛烈な猛攻の前に逃げ回るリュウ、その様子を見ていた春雨に、シンが一言。 シン「そういえばお前さん、義足の具合はどうだ？調子悪かったら明石に頼んで調整してもらえよ？」 春雨は口数少ない娘だがニッコリと笑って頷いた。 突然、「何か」を感じ取ったリュウの意識に同調したように、彼女のスーツ「MMS-RX0」が変調、通常形態の「想」モードから全出力形態の「祈」モードに変形。キラたちの制止を振り切って猛スピードで南下を開始した。 殺人的な速度で海上を移動し、たどり着いた先には、白く小さな身体の人影が力なく浮かび、漂流していた。どうやら、黒潮に乗って北上してきたようだ。 直ちに救助行動に入るが、既に手遅れの状態だった。かろうじて意識はあったものの、傷は深く失血もひどかった。 少女「……アナタハ……トモダチニ、ナッテ……クレル？」 リュウ「ええ、なりますよ。なりますとも！」 少女「……ｱﾘ､ｶﾞ､ﾄ､ｳ……」 この少女に何があったのかを知るすべはもう何処にもない。 だが、リュウは閉じられた瞳に浮かんでいた疑惑の色を敏感に感じ取っていた。 予想もしなかった事態と、想像もしなかった非条理、理不尽。容赦のない苛烈な感情の元、存在そのものを全否定されたことへに対する困惑。 ひとつの純粋な想いへの行動が取り返しのつかない事態を招いた自責。 少女はそれに苛まれたまま、その瞳を閉じた。 最期を看取ったリュウの言葉は、その救いとなるには余りにも短すぎただろうか。 キラ「リュウ、すぐに戻るんだ！何があったのかを報告してくれ！」 リュウ「……うん、すぐに戻るね」 　小さな白い体を抱きしめ、「想」は仲間達の待つ海域へと戻っていった。