その世界の『日本鬼子』は、ヒノモトオニコとしての記憶の一部を失っていた。 特に『円（えんの）ついな』に関する記憶は　ほぼ全てを失くしており、それと同時に円ついな自身も消息を絶ち、その足取りを全く掴む事ができないらしい。 この世界の『外』の出来事を知る『異世界のヒノモトオニコ』にしてみれば至極得心のいく出来事であったのだが、この世界の住人たる鬼子の周辺人物にとっては何が起こっているのか分かるはずもなく、ただただ当惑しているのみであった。 「田中匠、そしてチビ助」 ひとしきりの事情を把握すると、『異世界のオニコ』はそう切り出した。 「あいつ（鬼子）はそのままにしておいてやれ。『円ついな』もな」 「どうして！？」鬼子とついなの友人『田中匠』は、怒ったように反論した。「二人とも、大事な友達だよ！？それに、ひのもとさんは　こにぽん（小日本/こひのもと）のお姐ちゃんで…」 「ヒトは、ヒトの領域を踏み越えない方が幸せに生きられるからさ」 何かを諦めたような口調で『異世界のオニコ』は答える。 「あいつ（鬼子）は神にも妖怪にも成り切れなかったような奴だ。お前たちと一緒にいるのが一番いい。『あちら側』に行っちまった　ついなを追ったりすれば、代わりにお前達は『ヒトの幸せ』を失う羽目になる」 言いながら、この説明では納得なんかいかねえだろうな、と『オニコ』は自嘲する。 「ねねさま、もう　ついな　の事おもいだせないの？」 端から『オニコ』の言葉の意味などわからない小日本は、泣きそうな顔で『オニコ』の服の裾を握り締める。 「私は、それがいいと思う。もっとも、ソレを悲しんでいる暇は無いかも知れんぞ？」 そう言って皮肉っぽく笑いながら、『オニコ』は小日本の頭をわしゃわしゃと撫でた。 「お前が姉者までも失いたくないと思うのなら、これからアイツが失った記憶以上の『思い出』を、お前達はアイツと作っていかなければならんのだからな」 ~~~~ 「日本鬼子ぷろじぇくと」界隈での出来事を元ネタにしたSS。