知り合いの生主さんに送る言葉

ある晴れた日。いつものようにイオリの足を舐めていると携帯に着信が。大事な生徒のためだ。先生という立場である以上、“私”を殺して職務を全うする。それが自分に与えられた使命なのであろう。急いで支度をし、待ち合わせ場所に向かう。そこには見慣れた黒い有翼の生徒。彼女はいつも通りの柔らかい微笑みで出迎えてくれる。悩みなんて一つも感じさせないほど明るい彼女ではあるが、私を呼び出すほどのことだ。何か事情があるのだろう。今日はどうしたんだい？そう訊ねると「えっと、いやー、その。」と何とも言えない返事が返ってきた。彼女は正義実現委員会所属の生徒だ。きっと委員会活動で気の休まらない日々を過ごしているのであろう。大人に甘えて、ちくわ大明神。日々の責任を一時でも忘れたくなる瞬間があるのかもしれない。2人で近くのベンチに座り、ただボーッと景色を眺めることにした。数時間ほど経ち「もう大丈夫っす。ありがとうございました。先生。」━━そう言って立ち上がりこちらに向き直る彼女の顔は、どこかスッキリとして、何かしらの気持ちの切り替えができたようだった。「行ってらっしゃい。」大人が生徒に送る言葉はこれだけでいい。彼女はまた、いつも通りの笑顔で日々の喧騒に戻っていった。これだ。この笑顔を守るために私は、大人は、先生は存在する。シャーレに戻り、悩める生徒たちに手を差し伸べられるよう私も負けてはいられないな。