思い返す。 　トリニティ文化祭。曰く、珍しく政治的因縁を抱えがちなゲヘナ生とトリニティ生の交流が盛んになる日。その文化祭から数日後、トリニティでこっちも珍しく便利屋に大きな仕事が来る。前の新規事業説明会みたいに面倒なことになるのは避けたいので、事前調査を入念に行うことに決めた。最近シャーレに顔を出しスイーツを頬張っている、気になっていたあの猫耳の可愛らしいトリニティの子が、文化祭に向けてバンドを編成したらしい。他人が絡むことには足を踏み入れない主義だけど……まあ、トリニティの周辺状況を知るために仕事を優先して近づこうと思う。 　後日、シャーレの手伝いの隙にPC中の「プロフィール」フォルダをUSBメモリにコピーした。中身は好きな贈り物等の情報で、大半はアロナという生徒からの証言らしい。よほどの情報通のようだし社長のためにも後で調べないと。便利屋に帰り、USBメモリを刺したエイ～ブックレアと、爆弾設置予定地図を机上に広げる。ハルカが詳細に記してくれたおかげで、あの子に近づく計画は大きな仕事の片手間に済ませられた。……後で社長の写真と欲しがっていた植物の本を持っていってあげよう。 　接触は成功した。いつもとは違ってすんなり行ってよかった。バンドの解散を見計らい声をかけ、音漏れしていた曲と同じジャンルを弾いてみせ、詰まっているところがあれば教えると声を掛けた。最初に目を見られたときは、まるで昔の自分を見たかのような目をされたけど、その後中身は違うとの結論に至ってくれた様子だった。いつもはアルの笑顔のために働いてるけど、想定通り上手く行くこの達成感も嫌いじゃない。練習中、ミレニアムのカラオケではソフトクリームをいくらでも食べることが出来ると言ったら、予想通り目を輝かせて文化祭から数日後の遊ぶ約束に応じてくれた。 　そして今、私はカズサの歌っている横顔を眺めている。うん、先生がキヴォトスに来てからのと同様に濃い1週間だった。楽しそうにソフトクリームを頬張っているカズサに負けないよう、私もピザを頼んでみたけど、カズサに勉強を教えるには判断ミスだった。たぶん、今日の便利屋の大きな仕事が無事に終わって緊張が緩んだんだと思う。仕事後に見る歌い終わった後のカズサの笑顔は、便利屋のみんなと先生のと同様に安らぐ笑顔だった。 「意志の込められた、いい歌だったよ」歌い終わった彼女にそう伝える。