越後の国に生まれた幼い彼の身の上に何があったのかは知るべくもない。ただ、法師僧侶に深く深く恨みを抱くに至った彼は数多の僧を殺し殺して都に上るも、鎮護密教の雄、伝教大師・最澄と弘法大師・空海との戦いに敗れ、丹波国大江山に棲み付くことと相成る。二大師入滅ののちは茨木童子、石熊童子、かね童子やいくしま童子ら多くの悪鬼を従え悪逆の限りを尽くし、とりわけ見目麗しき男女を拐かし、その絶望と血肉を味わい喰らうを無上の悦びとしたという。常に生臭き風を吹かし、血のごとき紅袴を穿いたその身には陰陽師の切る九字を嘲笑うがごとき大格子の衣をまとい、無双の怪力と雷電に加え生命をも操り、その自慢の庭園には枯れることなく四季折々の草木が一堂に咲き誇る。僧仏を憎み、人の自由を奪うを悦びとした酒呑童子が初めて心を許した僧たちがその実、源頼光とその配下の頼光四天王紛する似非僧侶であり、謀られた上にその自由を奪われその身を滅ぼされたその顛末は、因果応報というにはあまりにも皮肉と言うほかはない。