鷹揚 を含むイラストが 6 件見つかりました ( 1 - 6 件目を表示 ) タグで検索
――それにしても、宏壮な屋敷であった。「どうぞ、お気の済むまで何処なりと御覧なさい」鷹揚な主の言葉に甘えて、あちらこちらを見て回るうちに、陽が落ちて来た。夕食を共にと言われてある。そろそろ主の待つ本館へ戻ろうと思った矢先であった。「あの、もし」薄暗がりから突然女の声で呼びかけられ、思わずぎくりとなった。人のいる気配も、近づいてくる物音もなかったのだが。障子越しの、弱い夕間暮れの光でよくよく透かして見ると、娘がひとり佇んでいるのがわかった。「や、これは失敬。こちらは今、どなたもお使いになっていないとうかがっていたものですから」いえ、と娘は小さな声で返事をした。美しい顔立ちの娘だった。年の頃なら、十六、七か。しかし、この肌の白さはどうしたことか。まるで……そう、まるで……いや、なにを馬鹿な事を考えているんだ、わたしは。「どうされました」「あの……本館まで、ご一緒させて下さいまし。お恥ずかしいのですが、戻り方がわからなくなってしまって」「ああ、お嬢さんもおよばれの方なんですね」「……ええ」返答に、奇妙な間があった。「広いし、入り組んでるから無理もありません。一緒にもどりましょう」ありがとうございます、と娘は頭を下げた。「なに、礼には及びません。さ、参りましょう」歩き出そうとすると、「あの、手を、手を引いていただけませんか」「え?」聞き返し、まじまじと娘の顔を見た。「わたくし、目が少々悪うございまして……暗いところでは、普通の方よりも足元がおぼつかないのです」「それはお困りでしたね。じゃあ、どうぞ」「恐れいります」差し出したわたしの手に触れた、娘の華奢な指は、まるで氷のように冷たかった。