しかし問われた薫も、その横に居る満も苦渋に満ちた表情を浮かべながら少女のその問いに答えようとはしなかった。

自分が今「何処」に「居る」かという事を。

人生に「主義」や「理想」を求めるのはごく少数の苦労知らずか、世間知らずでしかない。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　この世界の圧倒的大多数の「ヒト」が真に求めるものは「今の生活」と「明日の保証」。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ただ「それ」だけである。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ただ「それ」さえ与えてくれるのであるならば例えどんな「存在」であれ、その「支配」を受け入れてしまうだろう。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　例え「それ」が「独裁者」であろうとも。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　例え「それ」が「悪魔」であろうとも。

そんな逆神の驚き様に対し二人は――――

「それ」に漸く気付いた瞬間あゆみは激高しミユキに怒りの矛先を向けた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そのあまりに只ならぬ怒り様に思わず満が止めに入る程であった。

それは対面に居た満も同様で急な脱力感に襲われ立つのも覚束無かった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ただまるで自分の力も、何もかもが魂の奥底から「吸い尽くされている」かの様な感覚が辛うじて理解出来たというだけで。